満月の明るい光に包まれた桜は、幻想的な輝きを放ちながら、舞い踊るように思えます。

その花びらは透き通るような儚さと深い奥行を湛え、 神秘的な光の中に浮かび上がる桜の姿は、夢の中にいるような不思議な魅力をもって私の心を奪い、魅了するのです。

画室から見える桜です。

2015年制作
91cm x 240cm

鹿
 

 私には今でも心鮮やかに蘇る風景があります。岩手県種山高原です。

宮沢賢治の小説にも度々登場する草の生い茂ったなだらかな草原です。草原といっても背丈ほどもある草ですから、鳥の他には生き物の姿を見つけることはできません。
しかし、一歩足を踏み入れるとそこは生きものの命が満ち溢れていることに気づきました。

「青々とした草原」「息づく生命」それを絵に描きたいと思いました。しかしながら描くすべを考えあぐね、心に残し たまま幾年月が流れたのです。

ある日 山で鹿を見ました。その鹿は一瞬で林の中に消えてしまいました。幻か・・。
いや その生きざま そこに 宿る命の何かはしっかりと私の脳裏に刻まれていたのです。

 鹿の肉体ではなく目には見えないけれど 確かに存在する 命を感じ、魂がふるえる感動を覚えたのでした。

そしてここに心象風景として繋がりました。


        2018年 日展出品  150号