分かっているようで 分からないのが日本画  日本画って なに?     
 日本画家が語ります

手っ取り早く言うと、日本画はこれですという決まりがあるわけではないのです。どうもよく分からないものなのです。

絵画としては、なんら他の絵と変わりはありません。

でも私は「日本画を描いている」と言いたいし、実際言っています。

いってみれば、自己申告制みたいなところがありますね。

じゃあ他とまったく同じかといえば、いえいえ大いに違うのです。

その違いが日本画独特の特徴です。これがあるから、日本画って私は言いたいのです。

絵具屋さんに行くと、筆も違うし、絵具も違うし、紙に描くというのも水で描くというのも油絵とは異なります。

どうしてそういう材料を使うのか、それがなにを意味するのかをお話いたしましょう。

絵を描くということは

色のついた石や金属を何かにくっつける作業をすることなんです。色気のない話ですがそうなんです。
くっつけるためには接着剤が必要です。

大昔から使われてきたものは、卵です。卵を割る時手につくとべたべたするでしょう。その性質を糊として使ったのが テンペラ画 といわれるものです。紀元前の絵画で多く見られます。

次に壁を塗るときの漆喰を接着剤としたのが フレスコ画。西洋の教会の大画面などがありますね。

500年ぐらい前に急に使われ出したのが、樹木のヤニ、樹液のニスを接着剤として使ったものが、今でいう、油絵です。

ごく最近では、アクリル系の樹脂を接着剤としているものも出てきています。

日本画はというと、「にかわ」 を接着剤としています。
にかわは、魚などを煮るときできる「煮こごり」です。精製するとゼリーと言われます。そのにかわを使って私たちは日本画を描いています。

なんだ、「にかわで描くのが日本画か」となりますよね。事実「日本画はにかわで描くもの」と言う方もおられ、一理あります。

じつは、その「にかわ」が曲者なんです。すごいのです。

聖徳太子さんがいた頃です

大陸から新しい文化がやってきて、目が覚めるような思いだったでしょうね。漢字でものが表現が出来るようになったのですから。

ところがしばらく経つと、日本の四季が生み出している、きめ細かな季節感を表現するには漢字文では物足りなかったのでしょう。女性たちは話し言葉をそのまま書ける「かな文字」を作り出したのですよね。そこで繊細な表現を手に入れたのでしす。



絵画でも同じです。大陸から来た技法は、強く表現するのには向いていましたが、繊細さには程遠く、何とか細かいニュアンスを描き込みたいと思ったことでしょう。

絵具の大小 と にかわ


たどり着いたのが、絵具の粒子の大きさによる微妙な色の違いを使えば良いのだと。

ところがいざ描いてみると接着剤にくるまれて粒子の違いのニュアンスは無くなり、元の色、原石の色になってしまうのです。

ところが不思議なことに、「にかわ」で描くと、あれまあ、細かいニュアンスがのこり、繊細な表現が出来るのです。大発見です。

粒子の大小のごくわずかの色のちがいが並ぶ絵具屋さんは壮観です。

今につながる日本画


日本の風土や、日本人の繊細な感覚そのままに表現できるツールを手にし、発展させてきたのが、今につながる日本画です。

この繊細さは、重ねることによって深みを出せて、一色だけでも絵が出来ることにつながり、また絵具の持つ色の美しさでは右に出るものはないでしょう。


このことから、表現と同時に、暗示というものの表し方も手に入れたのです。

これこそが日本画ですと、私は言いたい。
その魅力こそが、日本画の原点ですと言いたいのです。
そして今につながっているのだと。